アンジェロ・ドーニの肖像

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フィレンツェ ビッティ美術館
1506年頃
ラファエルロ・サンツィオ

フィレンツェ時代中期、つまり二十二、三歳頃の作で、肖像畫の委託としては最も初期のものに属する。ペルジーノ風を早くも脱してレオナルドの影響を見せている作品である。微細な點にまで最新の心遣いが示されており、この時代の聖母子畫にくらべると、制作に何か内気な臆病さが感じられる。モデルの外見につとめて似せることに心を奪われていたためでもあろうか。肖像の主はフィレンツェの富裕な商人で、ヴァサーリによれば、繪畫と彫刻以外のものには金銭を使う事を好まず、しかもそれらの美術品をできるだけ安く手に入れようとしていた吝嗇な學藝保護者であったらしい。ミケランジェロの現存する唯一の完成した額畫「聖家族」も、この商人のために描かれたもので、そのとき彼は約束の金額を値切ったためにミケランジェロの講義を受け、結局、二倍の金額を要求されて拂つたという話がある。この肖像には、富裕な商人の富を明示するような物質的な属性は殆ど描かれていないが、しかし確かに財をなすにちがいないような拔目のない容貌が克明に表されており、ヴァサーリの逸話に傅えられるこの人物の個性を彷彿たらしめるものがある。鋭い射るような眼、高い頬骨、固く締めた口と薄い唇、鉤?の鷲鼻、これらはこの人物の半ば知的な半ば貧慾な鷹のような容貌を的確に形成している。色彩計畫は單純であるが効果的で、黒いベレー帽と、赤い袖をもつ黒い上衣とが生き生きとした對照を見せており、そこにはヴェネツィア畫派的な色彩効果を暗示するものがあるようにさえ思われる。しかしラファエルロが肖像畫家として成熟するのはもつと後で、「カスティリオーネの肖像」や「ラ・ドンナ・ヴェラータ」における、豐かな色彩のアルモニーや色調の微妙な組合せは、ここにはまだ見られない。なお、この商人の若い妻を描いた「マッダレーナ・ドーニの肖像」も、レオナルドの、特に「モンナ・リーサ」の影響を顕著に示しており、同じ時代の作とされる。

アンジェロ・ドーニの肖像

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