トップページ>高知県の観光>戦争と日本>帝国軍歌集>軍人龜鑑の歌
御國の爲に盡したる 益良猛夫は多けれど 茲に我々軍人の 龜鑑とすべき大丈夫は 抑も佐賀の兵亂に 一兵卒の身を以て 己が命を的として 一部六十餘人なる 危難を救ひし動功は 太刀を洗ひて紅の 雪を散せし筑後川 其川浪と諸共に 勇しき名を流しける 其後伍長に擢られて 彼の肥の國に隱れなき 熊本城を守りつゝ 茲にも名高き隼人の 薩摩猛夫の荒來を 忠義一途の益良雄は 家をも身をも打忘れ 此を先途と防ぎける 折しも守城の方略を 都の軍に通ぜよと 重き使命は輕き身に 覺束なくは思へども いなむは難き稻舟の 流石猛き益良雄の 營に歸りて潔よく 雪の肌へに墨を塗り 鶉衣に身をば窶せども 心の錦かゞやけり 當痲竹圍も啻ならぬ 四面楚歌なる城の外 指して行衛は知らぬ火の 知らぬ道芝踏分けて 心強くも行く先に 遠近見ゆる篝火は 敵か味方か眞の暗 K白も分ぬ眞夜中に 敵の陣へと飛り來て 遂に虜となりにける 皮肉を砕く荒人の 笞の下に泰然と 千苦萬苦堪へ忍び 守者の眠りを伺ひて 七重八重なる縛の 繩を解々鰐の口 遁れ出たる吉次越 たづきも知らぬ山中に 又も立入る虎の穴 再び縛に着たりし 心の中やいかならん 身は朝露と諸共に 消へなん者と張つめし 矢猛心の益良雄は 只一筋に國のため 尚も使命を達せんと 辛くも敵を欺きて 忠義を助くる神々の 應護に依りて恙なく 近衛の陣に身を投じ 野津少將に見へしに 嬉し涙のせき敢ず 暫は言も出ざりき 頓て使を述べければ 少將厚く勞りて 己が陣にぞ留めける 斯て三月四日には 官軍攻撃利なくして 崩かゝるを見るよりも 物に堪へぬ益良雄の 他人の銃を奪ひとり 單身壘に突入れど 身は鐡石に非ざれば 雨や霰と來る玉に 敢無く戰死を遂たりし 嗚呼比なき大丈夫の 身のなる果ぞ天晴ぞ 是ぞ我々軍人の 龜監と仰ぎ慕なる 陸軍歩兵伍長にて 谷村計介なるぞかし 見よ靖國の境内に 高く聳ゆる記念碑は 辱なくも朝廷に 其忠烈を嘉せられ 大將宮の畏くも 筆をば下し給ひたる 軍人龜鑑の四つの文字 昇る朝日に輝きて 其名は永く傅へなん 其名は永く朽ちざらん |