勇敢なる水兵

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日清戦役

軍歌に愛誦せらる

日清の役に於ける壮烈なる黄海の大海戦に就ては前項に於て、粗ぼ詳細に其の概要経過を鈘したるが、尚その際に於ける我が勇士の奮闘振りは、事實涙ぐましきものあることは一水兵が氣息奄々の裡にも、副長向山少佐に問ひたる一節にても知らるるのである。当時該水兵が向山副長に向かって問ひたる「定遠はまだ沈みませんか」の一語は、深く我国民の胸を打つて、其後これを軍歌に作詞され「まだ沈まずや定遠は」と題する黄海の戦の軍歌は、盛んに全国一般に愛誦されたのであつた。
黄海に於ける鈘上の如き激戦を極めたのであつて、此際我が旗艦松島は敵弾に中りて火を発し為めに一旦旗艦を橋立に移したほどであつた、然し艦船とも一隻だも破壊沈没したもの無く、敵海軍に一打撃を興へ黄海の制海権は全く我に帰したのであつた。此役に於て我が海軍戦死者は将校十名、下士卒六十九名、負傷者は全艦船を通じて将校下士卒總て百六十名であつたと言はれて居る。此の黄海の海戦と曩の豊島沖海戦と、二大激戦に由りて日本海軍の勇武は忽ち全世界に傅賞せられ清国は到底日本の敵にあらざることを認識せらるるに至った。斬くの如くにして征清戦役大勢は此時既に殆んど確定したるものの如くであつたのである。

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