戦車は益々進歩する
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戦車の出現したのは、不抜の堅壘を攻むるに、肉弾を以ては、一歩も進むことが出来なくなつたからであつた。将来陣地が堅固になり、戦争が執拗となるに伴ひ、戦車は愈々必要となる。陣地戦に用ひらるべき戦車はますます威力強大な砲や機關銃を備へ、ますます堅固な装甲板をもつて防護せられることが必要であると共に、如何なる障害物をも乗超えて突撃し、敵陣地を縦横無盡に蹂躙することの出来る威力重大なものでなけれねばならぬ。また待ち構へてゐる敵の砲火を冒して進むのであるから、損害を覚悟せねばならぬ。故に戦車の戦ひは雲霞の如き大群を用ひ、敵の不意に乗じて遊撃の暇を與へないやうに猛襲するのが良く、防者もまた戦車に對するに戦車をもつて迎ふれば、決戦場裡は陸上艦隊の舷々相摩する大接戦の壮観を呈するであらう。近頃軍の機械化の聲が高くなり、機械力を應用して軍隊を速度化することが、戦ひの重要な要素となつて来たので、戦車もまた陣地戦のみならず、運動戦にも大事な役割を受持つこととなつた。即ち戦車は機械化兵團の基幹として、或いは遠く本軍の前方に、或いは備へ無き敵の側背に活躍して、先づ緒戦に機先を制する。斯かる任務のためには戦車は快速な速度と、何千キロをも疾駆するに堪ゆる堅牢性とを必要とするのであつて、建造の技術はますます六ヶ敷くなつて来たのである。大戦當時戦車の速度は、毎時十キロを越るものは稀であつた。大戦後高速度戦車の要求は先づ英國に於いて高唱せられて遂に成功し、今日各國の趨勢は二、三十キロは普通となり、米國クリスチー戦車の如きは九十キロ以上の路上速度を發揮するに至った。また大戦中の戦車は、一會戦の後には、無限軌道を取換へなければ最早役に立たぬのを常とし、長距離の移動には別に運搬用の貨物自動車を準備してゐたが、今日ではよく數千キロの遠きにも耐へ得る様になつた。戦争の要求は斯くてますます工業の進歩を促しつつある。