操舟機と鐵舟
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河川を隔てて敵と相対峙し、或いは我が前進路に大河の障碍がある時等は、特に工兵の活動を要する場合である。即ち工兵は友軍を渡河せしめて敵を制圧し、我に戦勝の途を開かしめるの、重大なる任務を有するからである。然しながら状況に依っては、直ちに敵前に軍橋を架設して、友軍の主力を渡河せしむることができない場合がある。そこで通常暗夜、濃霧等を利用し、敵に秘匿して密に友軍の一部を渡河せしめ(隠密渡河といふ)先づ對岸の敵を駆逐し、次いで軍橋を架設して主力を渡河せしめる。もし敵に察知されれば、それに應戦しつつ、弾丸雨飛の中を強行して、飽くまでその目的を貫徹せねばならない。操舟機と鐡舟とは實にこの目的を達成するために缺くべからざるものである。鐡舟或いは木舟に操舟機舟と称する。さて兵員を満載した操舟機舟、或いは兵員を搭乗させた鐡舟を曳航する操舟機舟は、その發動機の爆音によって敵に発見されることを避けるために、最初は艪で静かに漕航する。しかし一旦敵に発見されれば最早躊躇を許さないから、機航で一気呵成に渡河を敢行する。重輕の機関銃で應戦しながら幾艘かの鐡舟が、敵の探照燈の光に隠見しつつ一齊に敵岸に迫るの光景は方に壮烈極まるものであらう。