殺人光線
高知県の観光>戦争と日本>軍艦集>電氣的威力兵器>殺人光線
電氣的威力兵器
殺人光線の名称は英語「デス・レイ」(死の光線)を譯したものであらう。此名称は人に依って區々であつて、例へば伊國では「ラヂオバリスチカ」(弾道的放射線)と称し、佛國では「レヨン・アルダン」(焼熱光線)は「レヨン・ヂアボリク」(魔の光線)等の語を用ひてゐる。我陸軍でも當初「エネルギー」を放射する兵器と称されてゐたが、其後怪力線といひ、時としては殺人光線と怪力線の名称を併用し、人馬を殺傷するものを殺人光線其他のものを怪力線と称してゐる。電波とか光線とか、或いは又「ラヂウム」の放射するα線、β線、γ線といつたやうなものに類する或放射線を用ふる兵器が實現したと仮定する。此放射線の向ふところ人馬は忽ちにして殺傷し、火薬は爆発し、飛行機や自動車は焼盡するか、或は着陸停止の止むなきに至る。又あらゆる電気設備は絶縁力を失うて用をなさなくなる。而も此放射線を遮止すべき防護法がないとしたならば、その効果は實に、すばらしいものであるまいか。之は確に兵器界の大革命であつて、之を有する軍が有せざる軍に當るは、恰も近世火兵を以て刀槍石矢の土賊に向ふが如きものであらう。或發明家は本發明の目的は、戦争の惨禍を絶滅するに在りといつた。蓋し彼我共に此兵器を使用する時は、所謂竜虎相摶つものであつて、共に惨滅を免れないから、如何に好戦の國民といへども、争議を武力に訴ふることはなくなるであらうからといふのである。此考を最初に試みたのは、西洋史の傳ふる處では「アルキメデス」であらう。西暦紀元前212年羅馬の将「マルセルス」が「シラキュース」を攻撃した際、彼は鏡を應用して太陽光線を反射収斂せしめ、遠距離より敵艦に火災を起こし、敵を苦しめたこと一通りでなかつたといはれてゐる。我國では神武天皇御東征の際金鵄の奇蹟があつた。曰く「時に一天俄にかき曇りて雹降りいだし、何処より飛来りしか金色の鵄、天皇の持ち給える御弓の先に止まり、其光の強く赫きたるに、悪者共は目眩みてまた戦ふこと能はず、遂に大に破れたり」と、之は「アルキメデス」の事蹟に先づ事約450年である。中世紀に於ても多少怪 力線的試みがあつた様だが、新生面を開拓するには至らなかった。最近欧州大戦は化学奇襲の偉効を教ふること切なるものがあつた。之がため怪力線兵器も第一に注目せられ、何れの強国でも一、二有力なる研究者を見るに至ったのも、自然の趨勢といふべきである。さて各發明の効果に就いて通覧するに、概ね左の何れかの一つ又は二つ以上の作用を具有するやうである。
A人馬其他生物を殺傷する
B飛行機、自動車等の運転を停止する
C遠距離より火薬を爆発する
d電信、電話、電燈其他一切の電気施設を破壊する
e家屋、船舶其他一切の可燃體に火災を起さしめる
f電気輸送のため金属線の代りとなる
g土地を豊穣にして五穀の収穫を増す
h癌の治療に用ふ
また怪力線の本質については勿論不明瞭であるが、次の様に分類して考へられる。
A光線を用ふるもの
B電波を用ふるもの
c紫外線と電波等との組合せによるもの
d其他の放射線
e現在の學界に未知の放射線
以下少しく之等放射線の與へ得る効果を吟味して見よう。